最近、auやドコモ、ソフトバンクなど、携帯電話会社のCMやニュースで「スターリンク(Starlink)」という名前を聞く機会が増えました。
山奥でもスマホがつながる。災害時にも通信できる。
そんな話を聞くと、なかなか便利なサービスだと思いますよね。
でも、気になって調べてみると、もっと驚くことがありました。
なんと、地球の周りにはスターリンクの衛星が約1万1,200機も飛んでいるんです。
人工衛星といえば、昔は国家プロジェクトで打ち上げる特別なものというイメージでした。それが今では、民間企業が1万機以上を運用する時代になっています。
なぜ、そんなに大量の衛星が必要なのでしょうか?
そして、スターリンクを運営するSpaceXは、いったいどこを目指しているのでしょうか?
スターリンクとは?すでに衛星は1万機以上
スターリンクは、イーロン・マスク氏が率いる米国の宇宙企業SpaceXが提供する衛星インターネットサービスです。
地上の光ファイバーや携帯電話の基地局だけに頼らず、宇宙を周回する人工衛星を使って通信します。
2026年11月初めの衛星追跡データでは、地球の軌道上にあるスターリンク衛星は約1万1,200機に達しています。
ただし、この数字は軌道上に存在する衛星の数で、すべてが通常の通信サービスを提供しているという意味ではありません。
打ち上げ直後の衛星や、運用軌道へ移動中の衛星なども含まれます。
それにしても、1万機以上とは驚きです。
なぜスターリンクはそんなに大量の衛星が必要なのか?
理由は大きく分けて3つあります。
1. 衛星が高速で移動しているから
従来の衛星通信では、地上約3万6,000kmにある「静止衛星」が使われてきました。
静止衛星は地球の自転に合わせて周回するため、地上から見ると同じ場所にとどまっているように見えます。
一方、スターリンクの衛星は、主に高度数百kmの低い軌道を飛んでいます。
地球に近いので通信の遅延を小さくできる反面、衛星は高速で移動します。
1機の衛星が日本の上空にずっといるわけではありません。
そこで、ある衛星が移動しても、次の衛星に接続を切り替えることで通信を維持しています。
つまり、途切れずに通信するためには、大量の衛星を地球全体に配置する必要があるのです。
2. 世界中をカバーするため
携帯電話の基地局は、人口が多い都市部を中心に設置されています。
ところが、山奥や離島、砂漠、海上などは事情が違います。
利用者が少ない場所に基地局を建設するには、設備費だけでなく、電源や通信回線、維持管理の費用もかかります。
採算が合わず、通信エリアを広げるのが難しい場所もあります。
衛星なら、地上に基地局がない地域にも通信サービスを届けられます。
ただし、地球全体を安定してカバーするには、衛星をさまざまな軌道に配置しなければなりません。
3. 利用者が増えても通信速度を維持するため
実は、これも重要な理由です。
衛星1機が処理できる通信量には限界があります。
利用者が少なければ問題なくても、同じ地域で大勢が動画を見たり、データをやり取りしたりすると、通信が混雑します。
衛星の数を増やすことで通信容量を確保し、利用者の増加に対応しようとしているのです。
つまり、スターリンクが衛星を増やすのは、単に通信できる範囲を広げるためだけではありません。
世界中で多くの人が同時に使える通信網を作るためでもあるのです。
SpaceXが目指すのは「世界中でスマホがつながる社会」
ここからが、さらに面白いところです。
スターリンクは当初、専用アンテナを設置してインターネットに接続するサービスとして普及してきました。
しかし、現在はスマートフォンと衛星を直接つなぐ「Direct to Cell」や「Starlink Direct」と呼ばれる仕組みも展開しています。
これは、宇宙にある衛星を携帯電話の基地局のように使う技術です。
従来、携帯電話の電波が届かない場所では、スマホは圏外になりました。
しかし、対応するスマホが衛星と直接通信できれば、地上の基地局がない場所でもメッセージなどを送受信できるようになります。
登山中の山奥、離島、海上、そして災害で基地局が使えなくなった地域。
これまで通信が難しかった場所で、スマホが役に立つ可能性が広がります。
もちろん、現時点で地上の4Gや5Gと同じ機能を、どこでも自由に使えるわけではありません。
対応端末やサービス内容、空の見通しなどの条件があります。
それでも、スマホが地上の基地局だけに依存しなくなるというのは、大きな変化です。
携帯電話会社がスターリンクを利用する3つのメリット
では、なぜ日本の携帯電話会社がスターリンクを利用するのでしょうか?
メリット1:基地局を建てにくい場所でも通信できる
山奥や離島に携帯電話の基地局を設置するには、多額の費用がかかります。
基地局本体だけでなく、電源設備や通信回線の確保、保守作業も必要です。
利用者が少ない地域では、投資に見合う収益を得るのが難しい場合もあります。
スターリンクを活用すれば、そうした場所でも通信エリアを広げられる可能性があります。
携帯電話会社にとっては、自社の地上ネットワークを補完できることが大きなメリットです。
メリット2:災害時の通信手段を確保できる
日本では、地震や台風、大雨などの災害が頻繁に発生します。
基地局が壊れたり、通信回線が切断されたりすると、携帯電話がつながらなくなることがあります。
そんなとき、衛星通信は重要なバックアップ手段になります。
なお、スターリンクの活用方法には2種類あります。
ひとつは、スマホが衛星と直接通信する方法。
もうひとつは、避難所や臨時基地局などにスターリンクの専用アンテナを設置し、インターネットへの接続回線として利用する方法です。
仕組みは違いますが、どちらも地上の通信設備が使えない場合に役立ちます。
メリット3:自社で衛星網を開発しなくて済む
携帯電話会社が独自に数千機もの衛星を製造し、打ち上げて運用するのは簡単ではありません。
ロケットの打ち上げから衛星の制御、通信技術の開発まで、膨大な投資が必要になります。
SpaceXと提携すれば、携帯電話会社は自社で衛星網を一から構築せずに、衛星通信サービスを提供できます。
これは事業上の大きなメリットでしょう。
ただし、衛星ネットワークの重要な部分を外部企業に依存することにもなります。
日本の携帯電話会社もスターリンクを活用
日本でも、衛星とスマホを直接つなぐサービスが広がっています。
auは「au Starlink Direct」を2025年4月に開始しました。
ドコモも2026年4月に「docomo Starlink Direct」を開始し、次世代衛星を使った高速通信の実現を目指しています。
ソフトバンクもスターリンクを活用したスマートフォン向け衛星通信サービスを展開しています。
一方、楽天モバイルはStarlinkとは別の衛星通信事業者であるAST SpaceMobileとの取り組みを進めています。
つまり、衛星通信の分野でも競争が始まっているわけです。
将来は普通のスマホで動画も見られる?
現在の衛星とスマホの直接通信には、通信速度や利用できる機能に制約があります。
しかし、SpaceXは次世代の衛星を使って通信容量を増やし、より高速なインターネット通信を実現する構想を進めています。
将来的には、地上の基地局がない場所でも、動画の視聴やビデオ通話などができるようになることを目指しています。
ただし、衛星通信には通信容量の限界があり、建物の中や地下などでは衛星の電波が届きにくいという課題もあります。
そのため、地上の携帯電話網がすべて衛星に置き換わるというより、地上と宇宙の通信網を組み合わせる方向に進むと考えられます。
衛星が増えすぎることに問題はないのか?
便利になる一方で、気になることもあります。
それが宇宙空間の混雑です。
スターリンクの衛星が増えれば、ほかの衛星や宇宙ごみとの衝突を避けるための軌道調整が必要になります。
衛星が衝突して破片が発生すれば、ほかの衛星にも危険が及ぶ可能性があります。
また、夜空を横切る大量の衛星が天体観測に影響するという問題もあります。
通信インフラとしての便利さと、宇宙環境への影響。
今後、衛星数がさらに増えるのであれば、どちらも考えていく必要がありそうです。
競争している携帯会社が、宇宙では同じ会社に頼る?
個人的に一番気になるのは、ここです。
au、ドコモ、ソフトバンクは、日本国内では通信エリアや料金、サービス内容で激しく競争しています。
ところが、衛星通信の部分では、同じSpaceXのネットワークを利用することになります。
これは、通信エリアを広げるうえでは合理的な選択です。
しかし、もし将来、衛星通信が社会に欠かせないインフラになったらどうでしょうか?
通信料金や技術仕様、サービス提供条件などについて、衛星ネットワークを保有する企業の影響力が大きくなる可能性があります。
もちろん、衛星通信の事業者はSpaceXだけではありませんし、地上の通信網がなくなるわけでもありません。
それでも、世界中の携帯電話会社が特定の衛星ネットワークに依存することには、新しいリスクもありそうです。
まとめ:スターリンクが変えるのは「圏外」だけではない
スターリンクの衛星が1万機以上も必要なのは、低軌道を高速で移動する衛星を次々と切り替えながら、世界中で安定した通信を提供するためです。
さらにSpaceXは、家庭向けインターネットだけでなく、スマホとの直接通信や航空機、船舶などにもサービスを広げています。
携帯電話会社にとっては、基地局を建てにくい地域でも通信エリアを広げられ、災害時の通信手段も確保できるというメリットがあります。
一方で、衛星の増加による宇宙空間の混雑や、特定企業へのインフラ依存という問題も出てきます。
昔は通信インフラといえば、地上に基地局や光ファイバーを整備することでした。
それが今では、宇宙に何万機もの衛星を配置する時代になろうとしています。
便利になるのは大歓迎ですが、ふと疑問に思います。
将来、携帯電話会社よりも、宇宙の衛星ネットワークを持っている会社の方が強くなるのでしょうか?
