最近、有名人の遺産相続をめぐって、相続税が高すぎるという話をSNSなどで見かけるようになりました。

日本の相続税の最高税率は55%。かなり高い数字ですよね。

ただし、誰でも遺産の55%を税金として取られるわけではありません。相続する財産の金額や家族構成によって税負担は変わります。

それよりも個人的に気になったのが、相続税の仕組みが昔と比べてどう変わっているのかということです。

最近は食料品も日用品も値上がりしていますし、不動産価格の上昇もよくニュースになります。

そこで、約30年前の1996年と現在の2026年を比較してみました。

調べてみると、ちょっと驚く結果でした。

30年前と現在で、相続税の基礎控除は40%も減っていた

相続税には「基礎控除」という仕組みがあります。

簡単にいうと、相続した財産から一定額を差し引いて税金を計算する仕組みです。正味の遺産総額が基礎控除以下なら、原則として相続税はかかりません。

1996年と2026年の基礎控除を比較すると、次のようになります。

項目 1996年 2026年
定額部分 5,000万円 3,000万円
法定相続人1人あたり 1,000万円 600万円
子ども1人の場合 6,000万円 3,600万円
子ども2人の場合 7,000万円 4,200万円
配偶者と子ども2人の場合 8,000万円 4,800万円

なんと、基礎控除は30年前より40%も少なくなっています。

例えば、配偶者がおらず、子ども2人が財産を相続する場合。

1996年なら7,000万円まで基礎控除の範囲内でしたが、現在は4,200万円までです。

この差は2,800万円。

同じ金額の財産を残しても、昔なら相続税がかからなかったのに、今なら課税対象になるケースがあるわけです。

※出典:財務省「相続税の改正に関する資料」

なぜ相続税の基礎控除は減ったのか?

実は、30年間かけて少しずつ減ったわけではありません。

大きく変わったのは2015年1月です。

それ以前は、1994年の改正で設定された「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」という基礎控除が長く続いていました。

その背景には、バブル期の土地価格の高騰があります。

当時は土地の評価額が大きく上昇したため、一般家庭まで相続税の対象になることを抑える目的で、基礎控除が引き上げられてきました。

しかし、バブル崩壊後は土地価格が下落。

政府は、相続税を負担する人が少なくなり、資産格差を是正する機能が弱まったとして、2015年に基礎控除を40%引き下げました。

つまり、基礎控除が下がったことには理由があったわけです。

ただ、そこから10年以上が経過し、今度は物価や一部地域の不動産価格が上昇しています。

それでも基礎控除は2015年から変わっていません。

ここが少し気になるところです。

物価は30年前からどれくらい上がった?

総務省の消費者物価指数を確認すると、1996年の指数は96.0、2025年度は112.3です(2020年=100)。

比較すると、物価は約17%上昇した計算になります。

もちろん、日本は長い間デフレが続いていたので、30年間ずっと物価が上昇していたわけではありません。

特に2022年以降の物価上昇が大きく影響しています。

ここで相続税の基礎控除と比較してみます。

  • 1996年から2025年度までの物価上昇:約17%
  • 1996年から2026年までの基礎控除の変化:40%減少

物価が上がっているのに、税金がかからない財産の上限は大幅に下がっているわけです。

仮に1996年の基礎控除7,000万円を物価上昇に合わせて調整すると、現在は約8,190万円に相当します。

しかし、実際の基礎控除は4,200万円。

物価を考慮すると、その差はさらに大きく感じます。

※物価の比較は1996年の暦年平均と2025年度平均を使用した概算です。相続税の控除額は物価に連動する制度ではありません。

1億円を相続したら、30年前と今で税金はいくら違う?

では、実際の税負担はどれくらい変わったのでしょうか。

次の条件で比較してみます。

計算の前提

  • 相続財産の正味の総額は1億円
  • 配偶者はおらず、法定相続人は成人した子ども2人
  • 子ども2人が半分ずつ相続する
  • 債務や葬式費用などは差し引いた後の金額
  • 小規模宅地等の特例や個別の税額控除などは適用しない
  • 1996年と2026年、それぞれの税率・基礎控除を使用する

この条件で計算すると、次のようになります。

項目 1996年 2026年
相続財産 1億円 1億円
基礎控除 7,000万円 4,200万円
課税遺産総額 3,000万円 5,800万円
相続税の合計 300万円 770万円
財産に対する税負担率 3.0% 7.7%

同じ1億円の財産を相続しても、税額は300万円から770万円へ。

470万円も増えています。約2.6倍です。

これはなかなか大きな違いではないでしょうか。

ただし、同じ名目額の1億円を比較したものであり、物価上昇分を考慮して財産の価値をそろえた比較ではありません。

また、1996年の最高税率は70%で、現在の55%より高く設定されていました。したがって、すべての財産額で現在のほうが税負担が重いわけではありません。

今回の例では、基礎控除の縮小による影響が大きく出ています。

相続税を払う人も増えている

実際に、相続税を負担する人の割合も増えています。

財務省の資料によると、2024年に亡くなった人のうち、相続税の課税対象となった人の割合は10.4%でした。

およそ10人に1人です。

以前は相続税というと、一部の資産家が払う税金というイメージが強かったと思います。

しかし、2015年の基礎控除引き下げ以降、相続税の課税対象は広がりました。

もちろん、現在でも約9割の人は課税対象になっていません。

それでも、以前より身近な税金になってきたことは確かです。

親が残した家や土地にも相続税がかかる?

もう一つ気になるのが不動産です。

相続する財産は、預貯金だけではありません。

自宅や土地、株式なども相続税の計算に含まれます。

例えば、親が長年住んでいた自宅を相続する場合。

土地の評価額が高ければ、現金をそれほど相続していなくても、相続税が発生する可能性があります。

税金は原則として現金で納める必要があるため、納税資金を用意できないことも考えられます。

ただし、自宅の土地については「小規模宅地等の特例」があり、一定の条件を満たす場合は土地の評価額を最大80%減額できます。

また、配偶者には大きな税額軽減制度もあります。

そのため、家を相続したからといって、必ず多額の相続税が発生するわけではありません。

重要なのは、財産の評価額だけでなく、家族構成や利用できる特例も確認することです。

そもそも相続税はなぜ必要なのか?

ここまで相続税の負担について書いてきましたが、相続税にも目的があります。

代表的なのは、資産格差の固定化を抑えることです。

親が多額の財産を持っている家庭と、そうでない家庭では、子どもが受け継げる財産に大きな差があります。

相続税は、そうした富の集中を緩和する役割を持っています。

この考え方には一定の合理性があると思います。

一方で、親が働いて所得税などを払い、コツコツ貯めてきた財産を子どもに残すとき、さらに相続税がかかることに違和感を覚える人もいるでしょう。

法律上、所得税と相続税は課税対象が異なるため、単純に二重課税とはいえません。

それでも、税負担のあり方について議論する余地はあると思います。

まとめ:最高税率55%よりも気になること

今回、約30年前と現在の相続税を比較してみて、個人的に一番気になったのは最高税率55%という数字ではありませんでした。

それよりも、物価が上がっている一方で、相続税の基礎控除が30年前より40%も少なくなっていることです。

2015年に基礎控除を引き下げた背景には、地価下落や資産格差の是正という政策上の理由がありました。

ただ、経済状況はその後も変わっています。

近年は物価が上がり、地域によっては不動産価格も大きく上昇しています。

それなのに、基礎控除は2015年のまま。

もちろん、相続税をなくせばいいという単純な話ではありません。資産格差をどう考えるかという問題もあります。

ただ、物価や不動産価格が変化するなかで、相続税の基礎控除が今の水準で適切なのかは、もう少し議論されてもいい気がします。

親が一生懸命働いて残してくれた財産を、次の世代にどう引き継いでいくのか。

有名人の相続税のニュースをきっかけに、そんなことを考えてみました